ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が好評なわけ
10月期の連ドラのひとつで、契約結婚した男女をコミカルに描くTBS系ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が好評だ。
ふつう2話は1話より視聴率がやや下がるものだが、2話で上昇したところに、視聴者の作品への期待の高さを感じる。
ドラマの終わりに、契約夫役の星野源による主題歌「恋」にのって、主演であり契約妻役のガッキー(新垣結衣)を中心に登場人物たちがダンスするだけでほっこりしてしまうのだが、それだけじゃない、まず原作がいい。
海野つなみが講談社『Kiss』で連載中、単行本が8巻まで出ている原作コミックは、未婚率が上昇しているいまの日本にぴったりだ。
○原作の良さを生かす脚本
その原作にかなり忠実な脚本は、これまでも『図書館戦争』『重版出来!』など原作もののドラマ化に定評がある野木亜紀子によるもの。
『図書館戦争』の原作者・有川浩は野木が原作を尊重していることを喜ぶ発言もしている。
そう、野木亜紀子はよくできた原作にあくまで忠実ながら、おいしいハンバーグをつくる上等な「つなぎ」のようにオリジナルのアイデアを加えてドラマをつくりあげる。…
たとえば、『逃げ恥』ではヒロイン・みくり(新垣結衣)と契約婚する津崎(星野源)の会社の仲間たち(古田新太、藤井隆という手練と、期待のイケメン・大谷亮平)が原作より早く出てきて、1話を盛り上げた。
それと、契約結婚までの展開の速さを、みくりの父親(宇梶剛士)が突拍子のない性格であることにして、娘のみくりも似ているという流れで見せる。
結婚ものというと、なんだかんだで、恋愛ものとなりそうなところ、みくりと津崎のやりとりはクールでドライで事務的。
みくりが津崎を好むところは「指示が具体的で明確、無駄がない」「突拍子のない提案にたいしても現実的な提案をしてくれる」とかちっとした単語が並ぶ。
結婚や恋愛に夢見てない者にとっては実に心地よい。たいへん理にかなった脚本だ。
なんといっても、原作では早々に津崎のことを女性体験なしとはっきり描写するが、ドラマでは「プロの独身」(刺激よりも平穏を愛する)と、ジェーン・スーの「未婚のプロ」みたいな言い方でボカしている。
○みくり(新垣結衣)のキャラクター
ドラマで受けのいいミステリーやお仕事ドラマのように実直で、ときおり挿入されるみくりの妄想(テレビのドキュメント番組で生き方を語る)が、逆に実際の世の中を映し出していて、このドラマが絵空事ではないと思わせるようにもなっている。
そのうえちょっとだけ、「仕事にしても結婚にしても誰かに選ばれたい」気持ちに寄り添う優しさもある。
みくり(新垣結衣)という人物は優しくてほっこりする。どんなにキツイこと言っても柔らかいのがいい。
2話で、結婚しない主義の風見(大谷)が、自分の時間を大切にしたいというと「相手の時間も大切にしたいんじゃないか」と彼の気持ちを慮る。
また、タイトルにもなっている「逃げるは恥、だけど役に立つ」という大事なことわざの薀蓄(うんちく)を語るのは、原作だとみくりだが、ドラマでは津崎が言い、男を上げていることも、ドラマのやさしさ度を上げることにひと役買っている。
星野だけでなく、ガッキーにしても古田新太にしても藤井隆にしても、現実とフィクションとの距離のとり方がうまい。
この軽妙な俳優陣によって、ドラマをいかようにも楽しめるようになっている。
○TBSの得意分野
そもそも、『逃げ恥』の構造は、いわゆる『おくさまは18歳』(70年/TBS)や『ママはアイドル!』(87年/TBS)などに代表される。
ほんとのことを隠して生活していてバレたら大変のドタバタ劇であり、みくりの叔母(石田ゆり子)が、仮の生活ものの元祖といえる海外ドラマ『奥様は魔女』(66年~/TBS)の話を出しているのも遊び心。
TBSの自家薬籠中の物である『逃げ恥』がどこまで飛躍するか期待している。